抗うつ薬は「栄養」と「休養」を助ける
「栄養」つまり食事の摂取面をみると、うつ病におちいった人たちでは、しばしば食欲が低下し、食べても以前のようにおいしく感じられません。人によっては食事の量が減って体重が低下しがちとなります。
私たちにとって、最も大切な「休養」とは睡眠をとることですが、この睡眠に目を向けると、うつ病になったほとんどの人は不眠を訴えています。具体的に言うと、熟睡できない、夜中にひんぱんに目が覚める、朝早く目が覚め、ふたたび寝ることができない、起床時の気分がなんともいえず不快である、などの症状が出ます。休息をとろうとしても、健康なときのような心地よい睡眠がとれなくなってくるのです。
このような症状を改善するために、私たち医師は、人間の気分を調整する作用のある薬物である抗うつ薬を、うつ病の患者さんに服用してもらいます。
抗うつ薬は、一定期間きちんと医師の指示のもとに服用すると、通常その効果は二週間であらわれます。それまで苦痛のもとであった不眠や食欲低下などは、徐々に改善してきます。すなわち、大部分のうつ病は、適切な治療によって、暗いトンネルから抜け出て、陽の当たる明るい道に至ることが可能です。しかし、このためには根気強く適切な治療を行わなければなりません。
薬だけの治療では不十分
心の病であるうつ病を、できるだけ最短距離で治療することを願って、患者さんに対して休養をすすめます。ところが、うつ病におちいる人の多くは、几帳面でまじめ人間であるだけに、はじめ休養をすすめても「それは無理です」と、患者から休養を拒否されることがほとんどです。うつ病の治療は「休養・休息」と「抗うつ薬による薬物治療」があいまって、はじめて治療効果が現れてくるものです。
また、周囲の人も、心の病であるうつ病の本態をよく理解して、決して運動させたり、無理に旅行に連れ出したりしないことが大切です。治療によって状態が改善してくると、気分も自然によくなってきて、自分からすすんで外出したくなるものです。
うつ病は、心に負担をかける行動を極力避けることが大切で、日常生活において無理をしなければ必ずよくなってきます。