感染症の原因となる微生物が、その治療薬から逃れる方法を獲得して抗菌薬が効かなくなった状態を薬剤耐性といいます。いくつかの細菌は複数の抗菌薬に対して耐性となる仕組みを獲得し、多剤耐性菌となり、治療薬が限られる、または皆無となることで多くの問題を引き起こしています。
多剤耐性菌は新しいものではなく、出現し続けています。1980年代にはMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、1990年代にはVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)、21世紀に入ると、多剤耐性結核菌、最近では多剤耐性アシネトバクターや、ほとんどの抗菌剤に耐性を示すNDM-1(ニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ1)という酵素を産生する大腸菌や肺炎桿菌(かんきん)による感染が報告されています。
健康な人にとっては
感染や病気を起こす力は、耐性菌でない細菌と同じです。一般的には健康な人の皮膚や粘膜の表面に付いたり、体の中に入ってもすぐに病気になりません。
問題になるのは
細菌感染症に対する抵抗力が低下した人(病人や高齢者など)では多剤耐性菌に感染し発病しやすく、抗菌剤が効かないため、治療が難しくなります。病院内では抵抗力の弱い患者さんが多く、多剤耐性菌は数週間以上生息できるため、院内環境にまん延して生息することもあり、手洗いや消毒が不完全であると、人の皮膚や手すりなどから患者さんに伝わり、院内感染を引き起こします。
感染が心配な場合は
病院などで多剤耐性菌にかかっている患者さんに接触した後や、トイレを使用した後はきちんと手洗いすることが大事です。また多剤耐性菌が問題となっている地域から帰国した後や多剤耐性菌感染者との接触後に熱が出たり、体調が悪いなどの症状が出たときは、早めに医療機関を受診しましょう。その際、渡航先や多剤耐性菌に感染した人との接触などを医師にお話しください。