炭疽は炭疽菌によって起こる疾病で、全世界に存在する人畜共通の感染症です。炭疽菌は土壌菌で、芽胞を作り、長い間(少なくとも数十年)栄養素がない状態で土壌の中に生存しています。熱や紫外線、化学物質などに強く、洪水、長雨などの異常気象があると、土中の芽胞が土表面に現れ、外気温に暖められた泥中で増殖します。
疫学
人では、昨年米国でテロによる発生が認められましたが、その他トルコ~パキスタン間は炭疽ベルトと呼ばれ、年間数百人の発症を認めます。動物では、アメリカやカナダではバッファロー、西アフリカでは象を中心とした草食獣に日常的に見られます。わが国では人および家畜にほとんど見られなくなりました。
炭疽菌に感染すると
感染経路によって症状は異なります。切り傷などから炭疽菌が表皮下に感染して発症する皮膚炭疽が95%以上を占め、それ以外は通常はきわめてまれです。炭疽菌の吸入によって起こる肺炭疽、炭疽菌に汚染された食品や飲み物を摂取することで発生する腸炭疽があります。
皮膚炭疽では、感染後2~3日で小さな紫や赤い腫れを生じ、感染後3~4日で水疱がその周囲に生じ、5~7日で潰瘍(かいよう)が生じ中央に黒褐色のかさぶた(痂皮(かひ))が形成されます。そのまま放置しておくと、高熱、浮腫などが見られ、毒素によるショックや死亡することがあります。
肺炭疽の初期は、かぜ症状を呈し、縦隔のリンパ節の顕著な腫脹が見られるのが特徴的です。初期症状のあと、呼吸困難による「急死」、昏睡などがみられ、急性症状が出現した後に治療を開始しても24時間以内に死に至ることも多いのです。
腸炭疽では、嘔気、腹痛、発熱、吐血、血便、腹水などが認められ、すぐに治療しないと毒素によるショックや敗血症を併発し死に至ることがあります。
病原診断
臨床症状のみで診断することは、困難なことが多く、特に肺炭疽と腸炭疽は緩慢な初期症状の場合が多く、職歴や疫学情報、発症前の状況などが重要になります。
診断は炭疽菌を分離・固定するのが確実な方法です。浸出物(皮膚炭疽)、痰(肺炭疽)、嘔吐物、糞便(腸炭疽)から炭疽菌を分離・固定します。
治療と予防
人用のワクチンはアメリカ、イギリス、ロシア、中国で販売されていますが、現在わが国では販売されていません。
治療は抗生物質が有効とされていますが、敗血症の場合には、抗生物質による治療が有効でない場合が多く、早期診断・治療が重要です。