心身がストレスや圧迫にたえられなくなったとき、私たちの体や心には多くの”ひずみ”が生じてきます。それが「うつ」のはじまりなのです。
WHOの推計によると、うつの有病率は全人口の3~5%とされています。わが国にたとえると、360万~600万人の人たちがうつにかかっていることになります。いま私たちの20人に1人はうつの経験をしていることになります。しかも、年々増加の一途をたどっているのです。不思議なことに、うつになっている人たちの中では、いま自分がおちいっている状態がうつであるととらえている人は少ないのです。うつはDSM-Ⅲ(精神病疾患分類)やICD-10(国際疾病分類)の精神分類では気分障害に属します。英語ではdepressionといい、経済用語では不景気をあらわし、言い換えれば気分の不景気が基本にある病気なのです。
大部分の人たちは、ふつう自分のおちいっている気分障害を、過労からくる一時的な気分のふさぎ込みだと考えがちです。
うつは基本的に1.気分の低下 2.意欲の低下 3.生命力の低下がみられます。気分の低下は情緒障害で、感情や情緒の起伏が現れるので、本人にも比較的わかりやすいと思います。憂うつ・悲しい・気分が落ち込む・不安と焦燥・落ち着かない・悲観的・劣等感に悩むなどの症状がこれにあたります。次に意欲の低下は、精神障害で積極的であるはずの行動が抑制されることです。やる気がわかない・無気力・閉じこもる・頭がさえない・考えがまとまらない・決断力を欠くなどが現れてきます。 そして生命力の低下は身体障害で、不眠・食欲不振・頭痛・だるい・疲れやすいなどです。
うつは意欲・食欲・性欲と欲のつくものすべてが低下するので、体の異常を治してもらうと考える人が多いのです。
うつになる要因は、大切なことやものが失われていく喪失体験なのです。大切なものを紛失する、病気などで健康を失う喪失体験、社会的地位や名誉やプライドや信用を失うこと、また、失敗・離別・離婚・死別などはすべて大切なものを失ってしまう体験なのです。人々はこの喪失体験に遭遇して、気分が抑うつ状態におちいってしまうのです。
これが「うつ」なのです。