かつて精神身体医学と称して、患者を身体面とともに心理面・社会面・生活環境面をも含めて総合的・統合的に見ていこうとしていたことを心身医学(Psychosomatic-Medicine)といいます。心身医学的という言葉を最初に用いたのはドイツの精神科医ハインロートでした(1818年)。近年における身体医学中心の流れの中で現在の心身医学が誕生し、学問的な基礎ができたのは20世紀に入るころからで、特にフロイド・アレキサンダー・パブロフといった先駆者たちによる心身相関についての研究成果や学問的な啓蒙活動によるところが大きいです。
心身医学が本来目指す理念は神経症や心身症といった狭い領域に限定されるべきものではありません。現代の心身医学が誕生し、発展を遂げたのにはいくつかの要因があります。
- 第1に、神分析ないし精神力動理論・行動心理学等によって、複雑で微妙な人間の心や行動に対する理解への手かかりが得られるようになったこと。
- 第2に、精神心理学や脳の科学の進歩等により、人間の心の座である脳の働きや心身相関のメカニズムについて、科学的・実証的な裏付けが得られるようになったこと。
- 第3に、心身両面から総合的に病状を理解し、病気よりも病人を中心とした全人的な診療の在り方を目指すようになったこと。
- 第4に、時代の変化とともに疾病構造も大きく変貌し、伝染病や感染症よりも生活習慣病・老年病・慢性疾患が増加し、また心理社会的ストレスによる心身の障害が増加しつつあること、が挙げられます。
人間的な心の病である「うつ病」は、今後ストレスの増加と相まって増えることが予想され、その対策は他人事ではなく本人が病気の理解とともにそれを学んでおく必要があります。